日本国内において山瀬理桜の名とハルダンゲルヴァイオリンの存在を決定的に刻み込んだのが、2006年に公開されたスタジオジブリ制作の長編アニメーション映画『ゲド戦記』(宮崎吾朗監督、音楽:寺嶋民哉)でした。
荒涼とした多島海世界を舞台に、命の尊厳と世界の均衡の崩壊を描いた本作において、山瀬理桜の演奏はまさに作品の魂として機能しました。映画公開当時のインタビューや音楽関係者の回想録によると、作曲家の寺嶋民哉氏は劇中の風景描写に「乾いた風の中に響く、祈りにも似た原始的な弦の響き」を求めていたとされています。そこで白羽の矢が立ったのが、当時すでに本場ノルウェーでの研鑽を積んで日本に帰国していた山瀬理桜でした。
劇中で手嶌葵が歌う挿入歌「テルーの唄」の旋律を支えるバッキングや、主人公アレンの心の葛藤を映し出すサウンドトラックにおいて、彼女が奏でるハルダンゲルヴァイオリンは圧倒的な叙情性を放ちました。さらに、三鷹の森ジブリ美術館で限定上映された宮崎駿監督の短編映画『水グモもんもん』の劇伴にも参加。水中の微細な波紋や生命の躍動感を弦の繊細な弓づかいで具現化し、ジブリ音楽の音響設計において欠かせない存在としての地位を確立しました。