2019年4月30日、平成最後の日。渋谷WWWで開催されたワンマンライブをもって、姫乃たまは10年間の地下アイドル活動に幕を下ろしました。動員が激減したわけでも、スキャンダルを起こしたわけでもありません。満員の熱狂の中でなぜ彼女はマイクを置いたのか、その引退理由の真相は多くのファンの間で議論を呼びました。
当時のインタビューや自著『永遠にコドモの国で生きていくわけにはいかない』で吐露されたのは、「アイドルというシステムの中で消費され続けることの限界」でした。地下アイドルの本質は、ライブそのもの以上に、終演後の物販(チェキ会)における1対1の密接なコミュニケーションにあります。何百人ものファンと向かい合い、好意や執着、孤独を一身に受け止める作業は、演者の精神エネルギーを激しく摩耗させます。
姫乃たまは手記の中で、ファンを愛しながらも「自分を切り売りして承認を満たすサイクル」に危機感を抱いていたと明かしています。16歳から10年間、心身をすり減らしながら走り続けた彼女は、20代半ばを迎え、「これ以上ここにいては、人間としての自分が壊れてしまう」という境界線に達していました。平成の終わりという象徴的なタイミングは、自らが選んだプロフェッショナルとしての見事な幕引きだったのです。