武田氏の刺激的な言説に対し、日本禁煙学会、日本呼吸器学会、国立がん研究センターなどの専門家組織や臨床医師たちは、詳細な統計データと疫学調査を基に反論を発表しています。医師たちが指摘する「武田説の初歩的な誤り」は、主に3つのポイントに大別されます。
最大の反論点は、「粗死亡数」と「年齢調整死亡率」の混同です。日本で肺がんの死亡者数(実数)が増え続けている最大の要因は、急速な「人口の高齢化」にあります。がんは加齢とともに発症率が高まる疾患であるため、高齢者人口が増えれば当然ながら死亡者総数も膨らみます。そこで人口構成の歪みを補正した「年齢調整死亡率(10万人あたりの死亡率)」を算出すると、男性の肺がん年齢調整死亡率は1990年代半ばをピークに明確な減少トレンドへと転じています。武田氏はこの年齢調整を意図的または無理解によって排除し、単なる高齢化による実数増を「タバコ無害の証拠」にすり替えたと批判されています。
次に挙げられるのが、「発がんに至る20〜30年のタイムラグ(潜伏期間)」です。タバコを吸った瞬間にがんができるわけではなく、数十年にわたる発がん物質の曝露と遺伝子変異の蓄積を経て発症します。日本で男性喫煙率がピークを迎えたのは1966年(83.7%)ですが、その世代が高齢期(60〜70代)に達して肺がんを発症・死亡するピークを迎えたのがまさに1990年代から2000年代でした。喫煙率の低下に伴う肺がん死亡率の減少効果が統計に現れるまでには長いタイムラグが存在することを疫学は証明しています。
さらに、受動喫煙の害についても、WHO(世界保健機関)傘下の国際がん研究機関(IARC)が副流煙を「グループ1(ヒトに対して発がん性がある)」に分類しており、受動喫煙による肺がん・虚血性心疾患・脳卒中のリスク上昇(非喫煙者比で約1.2〜1.3倍)は世界中の何十万人もの追跡調査で確定的な科学的事実となっています。