東京・上野恩賜公園に立つ西郷隆盛像は、彫刻家・高村光雲の手によって1898年(明治31年)に建立されました。連れている愛犬「ツン」は後藤貞行が制作した傑作ですが、この銅像の除幕式で起きたハプニングは今なお語り草となっています。
式典に招かれた西郷の妻・糸子(いとこ)は、除幕された銅像を見上げるなり、薩摩弁で「宿ん人(うちのひと)は、こげんなお人じゃなかっ(夫はこんな人ではありません)」と周囲が凍りつくような言葉を漏らしました。この発言は長年、「銅像の顔が本物とまったく似ていなかった証拠」として引き合いに出されてきました。
近年の研究では、糸子が違和感を抱いたのは顔立ちそのものだけでなく、「服装とシチュエーション」にあったという見解が有力です。偉大な元勲として顕彰される晴れの舞台であるにもかかわらず、浴衣のような薄手の着流し姿で犬を連れて散歩するラフな姿で表現されたことに対し、妻としての戸惑いや無念さが思わず口をついて出たという背景が明らかになっています。