ウォーキングを実践する人の多くが期待するのがシェイプアップです。しかし、「毎日1万歩を達成しているのに全く体重が減らない」という不満は日常茶飯事です。その背景には、エネルギー代謝の現実と人間の行動心理が深く絡み合っています。
まず、具体的な運動量を確認してみましょう。歩幅を平均70cmと仮定した場合、一日一万歩の距離と所要時間は、約7キロメートル、時間に換算すると約90分から100分(時速4.2km〜4.5km程度)に相当します。日常生活の移動を含めたとしても、意図的に確保しなければならない歩行時間は1時間を優に超えます。
これだけの時間を費やしても、一日一万歩の消費カロリーは成人(体重60kg前後)でおよそ300〜350kcal程度に過ぎません。これは白米のおにぎり約1.5個分、あるいは市販の菓子パン1個の半分から3分の2程度で相殺されてしまう数値です。
ここには「一日一万歩で痩せない決定的な理由」が存在します。行動経済学や心理学で「モラル・ライセンシング効果」と呼ばれる現象です。「今日は1万歩も歩いたから大丈夫」という無意識の免罪符が働き、間食が増えたり夕食の糖質や脂質の量が増加したりします。さらに長時間の有酸素運動によって食欲刺激ホルモンであるグレリンの分泌が促され、知らず知らずのうちに消費カロリーを上回る食事を摂取してしまう構造が出来上がります。
加えて、強度の低いダラダラとした歩行を長時間続けても、筋肉量を増やして基礎代謝を向上させる刺激にはなりません。結果として、一日一万歩のダイエット効果を過大評価し、食事管理を怠ることで「毎日必死に歩いているのに体脂肪が落ちない」という皮肉な結果を招くことになります。