旅の質を決定づける長崎県島原市名物グルメには、過酷な歴史を生き抜いた先人の知恵と、名水がもたらす恩恵が凝縮されています。
第一に挙げるべきは、島原名物具雑煮の評判を支える重厚な味わいです。寛永14年(1637年)の島原・天草一揆の際、一揆軍の総大将・天草四郎が城内に立て籠もった信徒たちに餅を供出させ、山野の野菜や海産物を鍋で煮込んで栄養を補給させたことが起源とされています。丸餅、鶏肉、焼き穴子、高野豆腐、ごぼう、春菊、シイタケなど十数種類の具材を、昆布と鰹の澄んだ出汁で煮込んだ一杯は、素朴でありながら驚くほど重層的な旨味を持ちます。地元老舗店「姫松屋」をはじめとする名店では、出汁の一滴まで飲み干す観光客が後を絶ちません。
甘味の代表格である「かんざらし」も外せません。白玉粉を湧水で練り上げて小さな団子にし、大寒の日に水にさらしたことからその名がつきました。上品な蜂蜜や砂糖のシロップに浮かべられた団子のツルリとした喉越しは格別です。島原かんざらし有名店として名高い「銀水」は、大正初期創業の店舗を地域住民と行政が情熱を注いで復興させた文化拠点であり、昭和レトロな佇まいと水場の涼やかさが訪れる人々を魅了し続けています。
そして、全国的な知名度を誇るのが島原手延そうめんの特徴です。良質な小麦粉と島原の湧水、そして温暖な気候を利用した伝統の「手延べ製法」により、職人が1本1本を熟成させながら極限まで引き延ばします。機械製麺とは根本的に異なる強いコシと小麦本来の芳醇な風味は、冷水で締めたざるそうめんだけでなく、温かい「にゅうめん」にしても煮崩れしません。この技術の高さが、島原の食文化の基軸を支えています。