当時の音楽シーンを振り返ると、80年代アイドル歌謡の多くは明るく親しみやすいキャラクター性を前面に押し出していた。しかし中森明菜は、その潮流とは明確に一線を画すアプローチを選択する。
『Fin』における彼女の歌唱は、もはやアイドルのそれを遥かに凌駕し、本格的なシンガーの領域に達していた。特に語尾をわずかに震わせながら減衰させていく独特のビブラートや、息遣いそのものをパーカッションのように機能させるダイナミクスは圧巻だ。過度な装飾を削ぎ落とし、言葉の一つひとつに魂を吹き込むその歌声は、聴く者の孤独に寄り添う圧倒的な説得力を持っていた。